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東京高等裁判所 平成3年(ネ)3991号 判決

控訴人

株式会社フジコー

右代表者代表取締役

桑原光雄

右訴訟代理人弁護士

青木亮三郎

被控訴人

右代表者法務大臣

三ケ月章

右指定代理人

矢吹雄太郎

外六名

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金六四万二〇〇〇円を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、主文同旨の判決(なお、控訴人は、当審において請求の趣旨を減縮した。)並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、当審における主張に対応して以下のとおり付加ないし敷衍するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目表末行目から同裏一行目の「(以下「法」という。)」を「(平成三年法律第九五号による改正前。以下同じ。以下「法」という。)」に改め、同三枚目裏九行目の「通知」の次に「(平成五年二月二五日衛産第二〇号により廃止)」を付加し、同四枚目表四行目から五行目の「法第一四条第一項」から同六行目までを「建設業については下請業者がその事業活動に伴って発生させる産業廃棄物の処理についても法第一四条第一項に規定する都道府県知事の許可を受けるよう記載した『建設業廃棄物の処理の手引き』等の手引書を配付したり、許可の窓口等において行政指導をするようになった。なお、産業廃棄物処理業の許可に関する事務は都道府県知事に対する国の機関委任事務であり、都道府県知事は右通達に従う義務がある。」に、同表七行目から同裏三行目までを「5 右通達によると、発注者から直接解体工事を請け負う場合を除いて、解体工事を行いそれに伴って生じた産業廃棄物を運搬、処分するには都道府県知事の許可を要することになるため、建物の解体工事等を業とする控訴人は、各都道府県の担当者の行政指導に従い、管轄の都道府県知事に対し、産業廃棄物処理業の許可を申請することを余儀なくされた。」に、同四枚目裏六行目から同五枚目裏四行目までを「(一) 控訴人は、昭和六三年一月二九日、千葉県知事に対し、同年四月二五日、東京都知事に対し、同年六月一〇日、埼玉県知事に対し、それぞれ木くず、ゴムくず、廃プラスチック類、金属くず、ガラス、陶器くず及び建設廃材の収集、運搬について産業廃棄物処理業の許可の申請をしたが、その際申請手数料として各六万四〇〇〇円を支払った。(二) 行政指導により右各許可申請に際しては廃棄物の処分先の承諾書の添付が必要とされているので、木くずについては有限会社佐倉環境センターから、それ以外の産業廃棄物については株式会社山一商事からそれぞれ承諾書の交付を受けたが、右交付を受けるため、有限会社佐倉環境センターに対しては一五万円、株式会社山一商事に対しては三〇万円の支払を余儀なくされた。よって、控訴人は、被控訴人に対し、国家賠償法に基づき、損害賠償として以上(一)、(二)の合計金六四万二〇〇〇円の支払を求める。」に、同五枚目裏七行目を「同3の主張は争う。同5のうち控訴人が産業廃棄物処理業の許可申請をしたことは認め、行政指導に従い許可申請することを余儀なくされたとの点は否認し、同6のうち(一)の事実は認め、その余の事実は不知。」にそれぞれ改める。)。

(控訴人)

1  法一〇条一項は、法三条一項の事業者の排出責任の原則に基づき、「事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない。」と定めている。これは、事業者が事業活動に伴って生ぜしめた廃棄物は、その事業者に処理せしめるのが最も望ましいこと、廃棄物の種類、性質等は事業者が最もよく知っており、それ故その事業者に処理させる方が適切な処理を期待できることに基づくのである。したがって、法三条及び一〇条にいう事業者は元請業者であると下請業者であるとを問わないものである。すなわち、法一四条一項本文は、「収集、運搬又は処分を業として行おうとする者」と規定していて、収集、運搬又は処分を専門とする業者、すなわち産業廃棄物の収集、運搬、処分のみを反復継続しておこなう専門業者について規定したものであるのに対し、同項ただし書は、「事業者がその産業廃棄物を自ら運搬又は処分するとき」とあって、その事業活動に伴って産業廃棄物を発生させる「事業者」であって産業廃棄物の処理専門業者でない者がその排出した場所から自ら運搬し、処分する場合を規定したものである(だから、「収集」が落とされているのである。)。本文とただし書はそれだけの違いがあるだけであって、法一四条一項ただし書の適用において元請けか下請けかで差別する余地はない。

なお、環産一四号通知は、建設工事に限って適用があるため、建設業以外で産業廃棄物を発生する業種においては、下請業者が自ら排出した産業廃棄物を運搬、処分するについて知事の許可がいらない取扱がされている。これに対し、建設業の場合のみ、産業廃棄物の運搬、処分につき許可を要するため、多大の費用、時間と労力をかけることを余儀なくされており、不合理といわなければならない。

実態をみても、元請業者が排出事業者として廃棄物の自己処理をしていることはなく、殆どが下請業者に処理を押しつけている実情にある。このような実態を直視すれば、下請業者を排出事業者と捉え、自己処理の責任を負わせるのが相当なのである。

なお、建設工事の現場で帰属不明の廃棄物が生ずることはあり得ない。特に建築物の解体工事については通常一社でこれを実施し、解体工事が完了しない限り新築工事は開始しないのであるから、解体工事から発生する廃棄物が帰属不明になることはあり得ない。また、建築物の解体工事の場合、元請業者が現場にきて廃棄物につき自己処理をするということは不可能である。また、そもそも元請業者は産業廃棄物の排出を抑制し、適正に分別するための専門的知識も意欲も欠けている実情にある。元請業者は下請けを産業廃棄物の処理につき充分監督する能力はない。むしろそれぞれの分野の専門業者である下請業者の方が適正処理能力があるのが現状である。

結局、環産一四号通知が示す法解釈は、法目的達成に適合せず、元請けと下請けとを合理的理由なく差別するものであって違法である。

2  控訴人は、東京都等の許可申請の窓口にいって相談したところ、控訴人が下請けとして実施する解体工事から発生する廃棄物を自ら処理する場合も、環産一四号通知によって産業廃棄物処理業の許可をとる必要があると強く指導され、かつ、無許可で処理した場合は法違反で告発する旨警告された。そこで、やむをえず、行政指導に従い、許可申請をしたものである。

(被控訴人)

1  産業廃棄物処理業の許可制の趣旨

(一) 法一四条一項において産業廃棄物の処理に関して許可制をとることとした理由は、産業廃棄物の不適正な処理が環境汚染を引き起こすおそれのあることにかんがみ、これを一般的に禁止し、一定の要件に該当する場合にのみこの禁止を解除することによって産業廃棄物の適正な処理を図り、もって環境汚染防止の確保を図ることを目的としたものである。

ただし、同ただし書において事業者が当該産業廃棄物を自ら運搬し、又は処分する場合について許可を不要としたのは、①事業者は事業活動に伴い恒常的に産業廃棄物を排出する一方でそれらを自らの責任において適正に処理する責務を有する(法三条)ため、事業者についても右禁止を原則とすることは論理的に矛盾するほか、実効性にも欠けるため、事業者に対しては処理基準の遵守義務を課すことにより適正処理を担保することが妥当であるとの立法上の判断を行ったこと、②事業者は、通常、自ら排出した産業廃棄物を適正に処理するにたる知見を有すると考えられることから、環境汚染を生じさせる危険性が相対的に小さいことを理由とするものである。

(二) このような法の趣旨にかんがみると、産業廃棄物の処理について、「自ら運搬し、又は処分する場合」の範囲をいたずらに拡大することは、法の目的を没却するおそれがあり、適当でない。

そこで、例えば事業者がその産業廃棄物を処理するために子会社を設置した場合について、たとえ当該子会社が事業者の専属の下請けであっても産業廃棄物処理業の許可を必要とすると解されているのである(昭和四七年一月一〇日環整二厚生省環境整備課長通知)。

(三) ところで、事業者とは、独占禁止法二条一項に定義されているように、一般的には「商業、工業、金融業その他事業を行う者」を指すものであって、いかなる名義をもってするかを問わず事業活動を行う者であれば、事業者に該当する。しかし、このような一般的な事業者概念を前提としながら、当該法律におけるその趣旨、目的等に鑑みた場合、個別の法律において予定される事業者概念はそれぞれ相対的であり、すべてを一義的に解釈することはできない。

そして、法においては、事業者につき排出者処理責任を明確にしているが、これは、事業活動によって生じた産業廃棄物の適正処理の問題が非常に大きな課題となっている事実や事業活動によって生ずるものである限りそもそも廃棄物の排出原因となる事業活動を行う者によって適正な処理が図られるべきことは当然であるとの判断によるものである。このように法にいう事業者概念は廃棄物の排出原因となる事業活動を行う者に対する排出者処理責任と表裏一体の関係にあることから、当該事業の性格や関与者の関与形態を踏まえ、当該事業活動において排出者処理責任を課しても廃棄物の適正な処理の確保を期待できない者は法にいう事業者として事業活動を行うものとは解されない。

2  建設工事における廃棄物処理の特殊性

(一) 建設工事においては、元請業者は、①発注者から当該工事全体を請け負っており発注者との関係において全責任を負うものであること、②建設業法によると、二二条において元請業者による一括下請けを禁止するとともに、二六条において、元請業者は通常の主任技術者を設置するだけでなく、一定の要件に該当する場合には監理技術者を置き、下請業者を適切に指導監督すべきことを定め、もって当該工事全体について元請業者に常に指揮監督すべき責任主体であることを担保している。すなわち、建設工事においては元請業者は当該工事全体に係る指揮監督の責任を有する者として定められている。これに対し、下請業者は、①発注者に対して直接責任を負わないこと、②前述のように、建設業法は一括下請けを禁止し、元請業者が当該事業の全部又は主体的な部分若しくは通常工事一件として独立して完成するような部分を一つの下請業者に請け負わせることを禁止していることから、一つの下請業者は当該工事の主体的部分を担わないものとして法定されていること、③建設工事の現場においては、元請け、下請け、孫請け等多数の事業者が関与して工事を行うのが常態であることから、排出に係る個々の実行行為を特定できない廃棄物が排出されるおそれがある。特に建設工事における現場は長期間にわたって存在するものではなく比較的短期間で消滅してしまうものであるので、建設工事の終了後に何人が排出した廃棄物であるかを認定することは殆ど不可能であるから、その処理責任があいまいになる。このような者に対して排出者処理責任を課しても廃棄物の適正処理を確保することが期待できないから、このような下請業者は廃棄物の排出原因となる事業活動を行う「事業者」に該当しないと解される。

そこで、建設工事においては、廃棄物の排出に係る事業全体を支配する立場にある元請業者のみを当該建設工事における排出事業者とすべきである(なお、排出事業者に該当する者が複数あってはならないから、下請業者を排出事業者と解した場合には元請業者は排出事業者ではないことになり、法的には何ら責任を負わないことになるが、これは右のとおり不都合である。)。

(二) もっとも、排出事業者たる元請けの行為とみなす範囲を拡大し、解体工事を経て廃棄物の収集、運搬又は処分する段階に至るまで排出事業者たる元請けの行為とみなして当該行為を許可不要とするがごとき解釈は、法の目的、趣旨に反する不当な拡大解釈で採り得ない。すなわち、収集、運搬、処分についてはだれがそれを行ったか不明確になるということはないから、これを元請けが行ったものとみなすような拡大解釈をすべきでないともいえる。また、元請業者は、建設工事については、指揮監督等を行うべき責任主体であることが法的に担保されているとともに、実態上も当該現場において下請業者を指揮監督することが可能であるのに対し、工事現場から排出される廃棄物の処理については、元請業者は、下請業者を指揮監督するべき責任主体として定められているわけではなく、また、実態上も当該処理について具体的に指揮監督することは殆どないし、著しく困難でもある。このように廃棄物処理については排出者処理責任主体である元請業者の指揮監督が及ばない以上、下請業者が当該廃棄物を処理するに当たっては別人格として産業廃棄物処理業の許可を必要とするというべきである。

3  控訴人が東京都等の窓口で相談したこと、その際東京都の担当者等が許可を受けるよう指導したことは認める。なお、環産一四号通知は改正法(平成三年法律第九五号)の施行に伴う平成五年二月二五日衛産第二〇号により廃止されたが、同通知にも同様の内容が盛り込まれている。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一本件は、建築物の解体工事及びそれにより生ずる産業廃棄物(木くず、建設廃材等。なお法二条三号及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令《昭四六年政令第三〇〇号。以下「施行令」という。》第一条参照)処理を主たる業務とする控訴人が環産一四号通知に基づき都道府県の窓口等でされた違法な行政指導により法一四条の産業廃棄物処理業の許可申請を出すことを余儀なくされ、その結果損害を被ったとして国家賠償法に基づき損害賠償を求めるものである。

関係証拠(〈書証番号略〉、原審における控訴人代表者)及び当事者間に争いのない事実を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  控訴人は建築物の解体工事及びそれにより生ずる産業廃棄物の処理を業とする会社であり、主として大手メーカーの下請けとして住宅用建築物の解体を行うことをその業務としている。

2  厚生省当局は、昭和五六年三月二七日、以下の内容の環産一四号通知を発し、右通知を根拠に、「建設廃棄物の処理の手引」、「建設廃棄物処理ガイドライン」等の冊子の中で、建設工事においては、廃棄物を処理する責任を負う排出事業者は建設工事を発注者から直接請け負った者(元請業者)が該当し、下請業者が工事のほか廃棄物の処理まで行うときは、産業廃棄物処理業者としての許可を得ておかなければならないとの解釈を対外的に示すに至った。

「産業廃棄物処理業の許可事務を遂行するにあたり、下記の事項に留意して、円滑な運用を図られたい。

1(略)

2(略)

3  建設工事を発注者甲から請け負った者乙が、建設工事に伴って生ずる産業廃棄物の処理を自ら行わず他の者丙に行わせる場合は、乙は産業廃棄物の排出事業者に該当し、丙は産業廃棄物の処理業者に該当することとなるので、このことを関係事業者に周知徹底させるとともに、必要となる産業廃棄物処理業の許可事務を執行すること。」

3  右通知を受けて、法一四条の許可権限を有する都道府県知事(なお、右許可に係る事務は国の機関委任事務である。)は、「建設廃棄物の処理の手引」といったパンフレット等において、解体業者の例を上げ、「解体業者が元請業者から解体を請け負い、排出された建設廃材を埋立処分場まで運搬する場合は、産業廃棄物処理業者として収集、運搬の許可を受けて行うこととなります。」などと記載して前記解釈の周知方を図り、また、窓口等においてその旨の行政指導をするに至った。控訴人も、東京都の担当者等に相談に行ったところ、同趣旨の行政指導を受けた。

4  控訴人は、右指導に従わず、許可を受けないで自分が下請けした解体工事から排出された産業廃棄物を運搬、処分すると法一四条に違反するものとして刑事罰を受けるおそれがあったため、やむなく、以下のとおり産業廃棄物処理業の許可を申請し、その許可を受けた。なお、解体工事から生じた産業廃棄物を運搬、処分した下請業者が現実に刑事罰を受けた例もある。

(一)  千葉県知事あて昭和六三年一月二九日申請、同年三月三日許可

(二)  東京都知事あて昭和六三年四月二五日申請、同年六月一六日許可

(三)  埼玉県知事あて昭和六三年六月一〇日申請、同年七月一日許可

5  控訴人は、右許可申請に際し、申請手数料として各金六万四〇〇〇円を支払った。また、許可申請には、産業廃棄物の処分先の施設の搬入承諾書を添付する必要があったが、処分先の施設からこの搬入承諾書を入手する対価として合計金四五万円の支払を余儀なくされた。

二そこで、まず、控訴人のような建築物の解体工事及びそれにより生ずる産業廃棄物処理を業とする者が発注者から解体工事を含む建設工事を請け負った者(元請業者)から解体工事を請け負い、その工事の過程で排出された産業廃棄物を運搬、処分する場合が法一四条一項ただし書にいう「事業者がその産業廃棄物を自ら運搬し、又は処分する場合」に当たるかどうかについて検討する。

右を検討するに当たり、まず、産業廃棄物処理に関する法の仕組みをみると、法は、廃棄物を一般廃棄物と産業廃棄物とに分けているが、一般廃棄物の処理については主として市町村が行うことになっているのに対し、事業活動に伴って生じる産業廃棄物については、三条一項において、「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。」と定め、一〇条一項において、「事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない。」と定めて、産業廃棄物を排出する事業者に産業廃棄物の処理責任を負わせ、しかも、自ら処理することを原則とした。これは、住民の日常生活から排出されるごみ等の一般廃棄物と異なり、事業活動に伴って生ずる廃棄物については、排出原因となる事業の利益及び損失が帰属する排出事業者がその処理の負担を負うのが当然であるという判断によるものである(ただし、右でいう「事業者」の意義等について特にこれを定めた規定はない。)。そして、右自己処理の原則に基づき、事業者が自ら産業廃棄物を処理(運搬、処分)する場合、処理が適正に行われるよう、一定の処理基準を守らせることとし、その履行の確保のため行政上の措置を執ることを認めている(一二条一項ないし三項等)。また、事業者は、自分で処理する以外に、排出した産業廃棄物の処理(運搬、処分)を他人に委託することができるが、その場合は、産業廃棄物の処理を業として行うことのできる者であって、当該委託しようとする産業廃棄物の処理の業務をその事業の範囲に含むものに委託しなければならないと定めている(一二条四項、施行令六条の二)。

そして、産業廃棄物の処理(収集、運搬、処分)を業とする場合は、その不適正な処理が環境汚染等を引き起こすおそれがあることを考慮して、原則として都道府県知事の許可を要することとした(一四条一項本文)。ただし、前記の事業者の自己処理の原則からの当然の帰結として、事業者が自己の排出した産業廃棄物を処理(運搬、処分)する場合は、許可を要しないこととしたのである(一四条一項ただし書)。このことからして、許可を要する産業廃棄物処理業というのは他人の排出した産業廃棄物の処理を業とする場合に限られることになる。なお、許可を受けることなく産業廃棄物の処理を業として行った者は、刑事罰の制裁が課せられる(二五条一号)。

ところで、法一四条一項ただし書の要件は、事業者がその事業活動に伴って排出した産業廃棄物を運搬、処分する場合に当たることが要件であるから、①ここでいう「事業者」の意義と、②当該産業廃棄物がその事業活動に伴って排出されたものといえるかどうかの二つの点が主として問題となる。

まず、①の「事業者」の意義については、一般に、事業者とは商業、工業、金融業その他事業を行う者を広く指すものと解されている(なお、独占禁止法二条一項参照)ところ、法でいう「事業者」についてもこれを別異に解釈する根拠はない。事業から生ずる利益及び損失が帰属する事業活動の主体であれば、その事業が別の事業者が請け負った仕事を更に請け負ういわゆる下請けの形態を採る場合でも、事業者に当たることは、明白である(被控訴人も、建設工事以外の場合については、この点を争わない。)。また、建築物の解体工事もこれを業とする場合は事業に当たり、建築物の解体工事を業として行う者が法にいう「事業者」に当たることも明らかであって、本件控訴人のように建築物の解体工事を請け負った事業者(元請業者)から更に解体工事を請け負う事業者(下請業者)も法にいう「事業者」に当たることは明白であるといわなければならない。

この点に関し、被控訴人は、事業者概念は相対的で一義的に解釈することはできないとして、法にいう事業者は廃棄物処理責任を負わせるにふさわしい者を指し、廃棄物処理責任を課しても廃棄物の適正な処理を期待できないような者は事業者に当たらないとし、建設工事の場合はその特殊性からして発注者から工事を請け負った元請業者だけが法にいう事業者に該当し、同人から更に工事を請け負った下請業者は法にいう事業者に当たらないと主張する。しかし、法は、事業活動に伴い廃棄物を排出した者には例外なくすべての者に廃棄物処理責任を負わせているのであって、そこに何らの限定はないというべきであり、事業活動による利益の帰属する者がその事業の過程で廃棄物を排出しながら、適正な廃棄物処理が期待できないが故に事業者としての処理責任を負わないでよいという解釈は法からは出てこない。法は、廃棄物を排出した事業者一般に処理責任を負わせるとともに、事業者の自主性にゆだねたのではその適正処理が必ずしも期待できないことを予期して、その適正な処理を確保するため、一定の処理基準を設けてそれに従う義務を負わせ、その義務履行を行政上命令できるようにし、また、自己処理ができない事業者には一定の第三者に処理を委託することを認めるなどの仕組みを設けたのであり、適正処理が期待できない者は処理責任を負わせる事業者から外すという解釈は到底採り得ないところである。しかも、「事業者」の解釈は、法三条、一〇条の事業者の自己処理責任をどの範囲の者に及ぼすかの問題であると同時に、一四条の産業廃棄物処理業の許可を要する者の範囲をどう解するかにもかかわる問題であるところ、被控訴人の解釈は、前者の面では処理責任を負う者の範囲をより限定する結果となって、国民に不利益を課すものではないが、後者の面では、事業者の意義を限定することによって逆に産業廃棄物処理業の許可を要する者の範囲を広げ、国民の営業の自由に対する制約を拡大する結果をもたらすものである。しかも、後者の違反には罰則が課せられるのであるから、その解釈は文理に則して厳格にされるべきで、この点からしても、被控訴人のいうように、法の「事業者」を通常の意義におけるものより限定して解釈することは相当でないというべきである。

次に、②の当該産業廃棄物がある事業者の事業活動に伴って排出されたものと評価できるかどうかは、結局、当該事業者が当該廃棄物を排出した主体とみることができるかどうか、換言すれば、その事業者が当該産業廃棄物を排出する仕事を支配、管理しているということができるかどうかの問題に帰着するが、少なくとも産業廃棄物を排出する単位として観念される一まとまりの仕事(何がこの意味の一まとまりの仕事であるかは、社会通念に従って判断される。)の全部を請け負い、それを自ら施工し、したがってその仕事から生ずる廃棄物を自ら排出した事業者は、たとえそれが下請けの形態をとっていたとしても、通常、廃棄物を排出した主体(排出事業者)に当たるということができる。もっとも、右の一まとまりの仕事の一部のみを元請業者の指揮監督の下で請け負う事業者を考えると、その場合は、該当下請業者は元請業者の純然たる手足であって、廃棄物が生ずる仕事全体を支配管理しているとはいえないから、元請業者のみが廃棄物を排出した主体に当たるというべきである(その場合、下請けは、法にいう事業者には当たるが、廃棄物を排出した主体とみることができないということになる。)。しかしながら、本件で問題となる解体工事は社会的にみてそれ自体で右の意味の一まとまりの仕事であると捉えられる(建物本体の建設工事とは完全に切り離して存在することができ、解体工事を一つの単位としてそこから建設廃材等の廃棄物が生ずるものと観念できる。)から、その解体工事を一括して下請けする場合を考えると、当該下請業者は、自己の請け負った解体工事の施工に伴って生じた廃棄物の排出主体であるといわなければならない。建設業法において元請けたる特定建設業者が下請人の指導に努めるよう定められている(二四条の六等参照)としても、また、個々の請負契約において下請けの仕事を元請業者が内容に立ち入って指揮、監督することができるよう定められているとしても、両者の法的関係はあくまで請負関係である以上、通常は、下請業者は独立した主体として解体工事に関与し、その工事を支配管理しているといわざるを得ないから、その廃棄物の排出主体たる地位を否定し去ることは困難である。

なお、この点に関し、被控訴人は、廃棄物を排出した事業者に該当する者は複数であってはならないということを前提として、建設工事のように多数の事業者が複雑に関与する場合は、下請業者を排出事業者と捉えると、処理責任を帰せられない帰属不明の廃棄物を生ずるおそれがあるから、建設工事全体を支配する立場にある元請業者を建設工事から生ずる廃棄物の排出事業者として捉える必要があると主張する。しかし、法はあくまで廃棄物を排出した当該事業者の責任を定めているものであるから(前記のように罰則もあるものである。)、被控訴人の右主張が、法的価値判断からは明らかに下請業者が排出した廃棄物と解されるものについて、廃棄物を排出した仕事を現実に支配管理しない元請業者であっても、下請業者の指導に努めるよう法律上定められている元請業者であることを理由に排出事業者とするというのであれば、法のとる右排出者責任の原則に反するものとして許されないというべきであるし、また、だれが施工した工事から生じたのか帰属が不明の廃棄物の出るおそれがあることの故に、帰属が明確な廃棄物の処理についてそれを排出した事業主体である下請業者の責任を免除できるとする根拠もないというべきである。特に、本件で問題となる解体工事の場合は、本体の建築物の建設工事とは明確に段階が画されるものであり、解体工事を一つの業者が一括して施工する通常の場合(原審における証人宮嵜英夫の証言、〈書証番号略〉)を考えると、そこから排出される廃棄物についてだれが施工した工事から生じたのかその帰属が不明になるということは考え難いのである。また、そもそも、被控訴人の立論の前提である廃棄物を排出する事業者が複数であってはならないとする点もその根拠は疑わしく、元請け、下請けの関係に立って仕事がされる場合であっても、その実態によっては、下請業者も独立の主体として当該仕事を施工しているとみられるのと同時に、元請業者も下請業者を履行補助者として当該仕事を施工している(当該仕事を重畳的に支配、管理している)と評価する余地があるのであり、その場合は、元請業者も下請業者と並んで廃棄物を排出した事業者に当たることになるというべきである。被控訴人のいうように、下請業者が排出事業者に当たるとすると、元請業者は即排出事業者に当たらないことになるとは断定できず、したがって、下請けを排出事業者と捉えると即帰属不明の廃棄物が出るおそれがあるという前提自体にも問題があるといわなければならない。

以上のとおりであって、被控訴人のいうように、建設工事の場合、元請業者だけを排出事業者ととらえ、一元的に廃棄物処理責任を負わせるとすると、行政当局による指導監督上便宜な面があり、その意味で廃棄物の適正処理の確保に資するという面があるともいえるが、そのような説は、立法論としてはともかく、現行法の解釈としては、到底採り得ないというべきである(被控訴人のように解釈するためには、法に、「建設工事においては、産業廃棄物を処理する責任を負う事業者とは、建設工事の発注者から直接工事を請け負う施工業者をいう。」といった趣旨の規定を置く必要がある。)。

したがって、控訴人のように発注者から建設工事を請け負った事業者(元請業者)から建築物の解体工事を請け負う者も、解体工事を業とする限り法にいう事業者に当たり、かつ、同人がその解体工事から排出された産業廃棄物を自分で運搬、処分する場合は、法一四条一項ただし書にいう「事業者がその産業廃棄物を自ら運搬し、又は処分する場合」に当たると解釈すべきであり、被控訴人が環産一四号通知を発し、対外的に示した前記の解釈は右の限度において法の正しい解釈とはいえなかったというべきである。

三そうすると、右通知を受けて都道府県知事らが控訴人に対し法一四条の許可を申請するよう促した行政指導も違法であったといわなければならない。そして、法の文言等に照らすと、前記の解釈には相当の根拠があったとはいい難く、本件でこのように環産一四号通知を発し、法につき誤った解釈を示したことについては、厚生省の担当官に少なくとも過失があったというべきであり、担当官のそのような行為が原因となって控訴人に対し違法な行政指導がされ、その結果、控訴人は本来必要がない法一四条の産業廃棄物処理業の許可申請をすることを余儀なくされ、それに伴い、前記のとおり合計金六四万二〇〇〇円を支出して同額の損害を被るに至ったものであるから、被控訴人は、控訴人に対し、国家賠償法一条に基づき、損害賠償として、右金六四万二〇〇〇円を支払う義務がある。

四よって、控訴人の請求は理由があるから、これを棄却した原判決を取り消し、被控訴人に対し金六四万二〇〇〇円の支払を命じ(なお、仮執行の宣言の申立ては相当でないから、これを却下する。)、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宍戸達德 裁判官大坪丘 裁判官福島節男)

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